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2014年02月17日

三宅 眞理さん/関西医科大学公衆衛生学教室講師・西宮認知症予防会副理事

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私は現在、認知症予防ヘルスプロモーション活動として「認知症の人と踊るダンスプロジェクト」に取り組んでいます。認知症の人と踊るダンス〜いっしょに踊ろう〜の作詞とオリジナルのダンスを考案しました。この度、私の活動を紹介いただく機会を頂戴しましたことに心からお礼申しあげます。

「あなたと私 ゆっくりと踊ろう 手と手を取って ゆっくりと踊ろう
 遠い宇宙も 青い海も あなたと私 ゆっくりと踊ろう」  
作詞 三宅眞理 作曲 奥野勝利(2012年)

どこか懐かしいような、とてもゆったりとしたテンポのメロディーに、ハーモニカの音色が重なって流れます。この歌を歌いながら、手をつないだりステップを踏んだり。2人組からグループへ、そして、手話は気持ちを表現しながら踊ることもできます。認知症の人も介護者も同じリズムを共有することができ、バランスがとりにくい方にはそばにいる人が支えながら動くことができます。認知症の人の尊厳を保ち、その人らしさを表現できるように考えました。
 

オーストラリアの介護
多くの女性は子育てだけでなく家族や親の介護を担うことがあります。おそらく、誰もが介護が必要にならないように予防を考え、万一、自分や身近な人に介護が必要になったときも、心を健やかに保ちたいと願っていると思います。私も13年間ほど前からオーストラリアの高齢者の生活の質の豊かさに興味をもち、オーストラリアの高齢者介護について研究してきました。先日、オーストラリアのコミュニティを研究され、『多文化子育て』の著者である山岡テイさん(情報教育研究所所長)にお目にかかりました。このエッセイにも書かれていましたが、お互いの「違いを認めて共に生きる」考え方に共感しています。そして、子育ても高齢者の介護も同じように当事者だけでなく「地域社会で支える」ことが大切であると改めて学ぶことができました。また、そのご縁で、このリレー・エッセイに紹介を頂いたことに深謝いたします。
さて、多文化の国、オーストラリアはわが国と同様に高齢化が進み介護の質を高める取り組みが早くからなされています。原語の違いや加齢による難聴で伝わりにくくなりがちな高齢者のケアには言葉だけでないコミュニケーション(ノンバーバルコミュニケーション)が効果的です。介護でコミュニケーションが取れない場合、不安、不満や疎外感は高齢者だけに限らず、介護者にも精神的な負担が大きくなります。
オーストラリアの介護の特徴は身体介護をするスタッフとは別にライフスタイルを充実させる専門職のライフスタイルワーカーが配置されていることです。ライフスタイルワーカーは高齢者一人ひとりの身体機能や性格、習慣、履歴、好きな活動などから本人理解を深め、レジャーやレクリエーション、運動、創作活動、回想法などを用いて、日々を楽しく暮す活動を提供します。このような心理・精神的なケアを提供することで高齢者の自立と活性化を促すことを目的にしています。特に、喜(怒)哀楽の自己表現を共有することで心のバリアを取り払い、高齢者には居心地の良い住みかを提供し、スタッフには働きやすい職場になるように努めている。高齢者と介護スタッフの間を上手に繋ぎ、ケアする人もされる人も笑顔の絶えない暮らしをセッティングしているように感じます。


ダンスコミュニケーションで「共に生きる」
ダンスはオーストラリアの介護施設でも人気のプログラムのひとつで、ライフスタイルワーカーたちも積極的に用いています。なぜなら、ダンスはその人の五感に働きかけながら、言葉によるコミュニケーションに頼らなくても、身体を使って様々な感情を表現することができるからです。
このダンスプロジェクトに協力してくれたオーストラリアダンスセラピー協会のヘザー・ヒル博士は、「ダンスとは、心、身体、感覚、魂に関わる相対的な経験。そして、感情、意味の創造、変身につながる優美な経験でもあり、私たちを生き生きした元気の出る体験に引き込む。そして、これらの要因は認知症と共に生きている人たちには特に大切なものです」と語っています。したがって、ダンスは認知機能に影響を与え、感覚や感情のレベルで人に触れ、人間の基本的ニーズに多く働きかけ「共に生きる」ことを感じられるものなのです。
私が「いっしょに踊ろう」を作りたいと思ったのは、日本の介護施設で歌の会をしているときでした。どの活動にも興味を示されなかった認知症の人が、ある日、ある歌を聴いて涙を流されました。その曲に特別な思い出があったのでしょうか・・・突然でびっくりして戸惑いましたが、その感情を受け止めました。それから、私もあなたのことを思っていることを伝えたい、安心してくださいという気持ち込めて「いっしょに踊ろう」を作詞しました。おそらく、私だけではない、介護にたずさわる人が持つ共通の思いを歌とダンスにして伝えたかったのです。
他にもダンスだけではなく、日本文化である盆おどりや民謡、日本舞踊などもダンスコミニュケーションに活用できるものがあります。言葉はなくてもつながることができるダンスコミニュケーションで、様々な世代を超えて感じる人の温かさ「共に生きる幸せ」を、ぜひそれぞれの世界で感じてみてほしいと願っています。


認知症の人と家族の豊かな生活のために
認知症は誰にもなる可能性があります。しかしながら、決定的な治療薬はまだありません。でも、認知症になったからといって、何もかもできなくなるわけではありません。「認知症の人」ではなく「認知症」の人として、尊厳をもって接することが最も大切です。
認知症の当事者であるオーストラリアのクリスティーン・ブライデンさんは、(1995年に46歳でアルツハイマー病と告知を受ける)自分がなくなることへの恐怖と取り組みを多くの人前で話され、「患者ではなく、ひとりの人間として」生きられるよう講演活動を続けられています。診断の後に結婚したポール氏を、自分自身の残された能力を最大限に引き出す存在としての「enabler(イネイブラー)」だと表現し、「だんだんと不協和音になっても、音楽に合わせて踊りたい」と「認知症という音楽に合わせて、2人でダンスしているイメージ」と語られています。認知症と共に生きる本人に寄り添うケアの本質もそうであると感じずにいられません。
これからも、私はこのダンスを認知症予防のヘルスプロモーションとして広げたいと考えています。ヘルスプロモーションとは「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」です。高齢期になって、自ら主体的に健康行動に取り組む人が増えることが、本当の介護予防になると考えています。認知症の人もそうでない人もダンスを通じて健康について考えること。そして、その地域に暮らす人を対象に、認知症の理解を深めるための講演とダンスイベントを各地で行っています。

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認知症の介護には、当事者と家族しか分からないご苦労もおありだと思います。そんな中で、認知症のご本人とご家族が一緒に参加して踊ってくださることが何よりも嬉しく思います。なぜなら、その背景には、そのご家族をサポートする専門職の存在や認知症の人を理解する地域づくりができていることがうかがえるからです。
どうか、認知症の人が地域で安心して暮らせる町でありますように。一人でも多くの人が認知症の人をサポートできる地域づくりにこの歌とダンスが貢献できればと願っています。皆様の地域でのイベントにご活用いただければ幸いです。

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問合わせ先
NPO法人 西宮認知症予防会のホームページ
 http://www.eonet.ne.jp/~yobo/index.html

投稿者 green_heart : 10:02 | コメント (0)